こんにちは! 今回は原点に返って、皮膚常在菌、特に善玉菌の役割について詳しくご説明したいと思います。
◆皮膚常在菌にはどんなものがいるの?
人の身体には数えきれない量の菌が共生しています。
その中でも大半を占めるのが腸内細菌です。
その数はおおよそ100兆個と言われており、重さにするとなんと約1Kgもあるそうです!
人の細胞の数はおよそ60兆個と言われていますが、その量よりも腸内細菌の方が多いなんてスゴイ数ですね。
人の健康を左右するのも頷けます。
そして、肌の上にはおおよそ1兆個の常在菌が暮らしているといわれています。
その種類は大別しておおよそ10~20種類。
まずは、その中の代表的なものを紹介しましょう。
◆表皮ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌は、肌の善玉菌の代表格です。
肌の表面にいて、皮脂膜をつくることで肌を乾燥と刺激からガードしてくれる大切な存在です。
表皮ブドウ球菌にはほかにも様々なチカラがありますが、それについては後ほど詳しく説明します。
◆アクネ菌
アクネ菌はニキビの原因菌として知られていますが、実は肌を弱酸性にしてくれる大切な存在です。
ほぼすべての人の肌に常在していて、多くの場合、肌の上に一番多いのがこのアクネ菌です。1㎠におおよそ1万個ほど。表皮ブドウ球菌は1千個程度なので、10倍も多いですね。
日和見菌としても知られている通り、増えすぎるとニキビの原因になります。空気が苦手で毛穴の中にいます。
◆黄色ブドウ球菌
肌の抵抗力が弱まると増えてしまう悪玉菌。
アルカリ性を好み、傷口を化膿させたり、炎症を悪化させます。弱酸性の肌では増えられないので、普段はほとんどいないか、少しだけ居てもおとなしくしています。表皮ブドウ球菌とアクネ菌が少なくなると増えやすくなってしまいます。
アトピー肌やトラブル肌に多く常在することが分かってきており、肌環境を悪化させる原因菌です。
◆マラセチア菌
カビ(酵母)の一種。
肌荒れの原因になり、炎症を悪化させる。
アクネ菌と同じく毛穴の中にいる菌で、ニキビやアトピーの原因もしくは悪化因子といわれています。
皮脂を好むため、油分の多いところで繁殖します。
◆皮膚の構造と常在菌の分布
角質層はたったの0.02mm。真皮まで含めてもたったの0.2mmです。
そんなうすーい空間に菌たちは暮らしています。
そして常在菌たちは、種類ごとに好みの住まいが異なります。
表皮ブドウ球菌は肌の一番表面で暮らし、皮脂と汗をエサにして皮脂膜を作り、外部から悪玉菌が付着することを防いでくれています。
アクネ菌とマラセチア菌は空気を嫌うので主に毛穴の中で暮らしています。
皮脂量が多くなり、毛穴がふさがると、アクネ菌もマラセチア菌も毛穴から出られなくなり、その中でひたすら増殖します。
すると毛穴に菌が増えすぎて炎症をおこしニキビができるんですね。
◆こんなにすごい! 善玉菌のチカラ
さて、ではいよいよ善玉菌の代表格、表皮ブドウ球菌がどんなことをしてくれるのか、見ていきましょう。
1)肌のバリア機能を高める
表皮ブドウ球菌は毛穴から出る皮脂と汗腺から出る汗を混ぜて、天然のクリームともいえる皮脂膜を作ります。この皮脂膜が皮膚を弱酸性にします。
また、抗菌ペプチドを産生することで悪玉菌の付着を防ぎ、肌を守ります。
2)肌をうるおいで満たす
表皮ブドウ球菌はグリセリンを作り出してくれるので、この菌が元気に暮らしている肌は何もしなくても乾燥しにくい、自ら潤える肌になります。また、バリア機能がしっかりしていれば、角層から漏れ出す水分も最低限で抑えられるので、うるおいが逃げにくく、しっとりもっちりした肌になれます。
3)エイジングケアにも
なぜ、エイジングケアにも効果があるのかと言うと、実は表皮ブドウ球菌自体が抗酸化成分を作り出してくれるのです。
抗酸化成分は、皮脂が酸化することを防いだり、紫外線ダメージ等による肌の酸化から守ってくれます。
コエンザイムQ10やアスタキサンチンなど、有名なエイジングケア成分はみな、この抗酸化力が高いことで注目された成分です。
表皮ブドウ球菌が増えるだけで、エイジングケアに必須の抗酸化成分までお肌にたくさん与えることができるようになるんですね。
いやはや、お得すぎますね!
4)ターンオーバーを正常化
表皮ブドウ球菌の主なエサは皮脂や古くなった角質です。
表皮ブドウ球菌が多ければ、古い角質や余分な皮脂がたまりにくいので、ターンオーバーが正常に保たれます。
老廃物が少なければ、肌もごわごわしなくなるので、洗浄力の強い石鹸やピーリングジェルなどを使わなくても、いつもツルツルのお肌になれます。
5)ニキビを予防!
余計な皮脂を食べるということは、毛穴も詰まりにくくなるということです。
表皮ブドウ球菌がせっせと皮脂を食べてくれることで、毛穴詰まりが起こりにくくなり、アクネ菌も増えすぎずに良い働きをしてくれるようになります。
また、アクネ菌が出すリパーゼという物質が有利脂肪酸をつくり肌環境を悪化させるのですが、表皮ブドウ球菌が出す抗酸化成分によって、その働きは弱められます。
◆洗いすぎは菌虐待!
さてさて、ここまで読んでいただけたら、皮膚常在菌を大切にした方がいいな~と思っていただける方も多いのではないでしょうか。
そこで、一番簡単な育菌方法をお伝えします。
それは、次の3つです。
1)洗いすぎないこと!
2)化粧品を使いすぎないこと
3)肌を乾燥させないこと
1回の洗顔で皮膚上の常在菌の8割程度が洗い流されるといわれています。
その後、元の量に戻るのには6時間から8時間必要です。洗う回数が増えると、菌が十分に増えられないうちに洗い流されてしまい、どんどん肌の菌数が減ってしまいます。
また、多くの化粧品にはそれぞれ防腐剤やアルコールが含まれています。使う数が増えると、肌に蓄積する防腐剤やアルコールの量も増えるので、常在菌が増えにくい環境を作ってしまいます。
そして、アクネケアの化粧品などは殺菌することでニキビを治すものが主流です。炎症が起きているときにはある程度必要ですが、ずっと使い続けると常在菌が死滅して、トラブルが起きやすくなります。
なにせ、アクネ菌は肌に一番多い菌です。アクネ菌がいなくなる前に表皮ブドウ球菌は死滅してしまいます。
くれぐれも使いすぎには注意が必要です。
さらに、肌が乾燥しすぎるのもよくありません。
乾燥した環境では菌はあまり増えることができません。
乾燥する→菌が減る→皮脂膜が作られなくなる→更に乾燥する
こういった負のスパイラルを招いてしまいます。
使いすぎもよくありませんが、乾燥が激しい時にはある程度保湿ケアもしてあげてください。
◆大切なのは、バランス
最後に、いくら菌が大切だからと言って、全く顔を洗わないなど、不潔になってしまうのはお肌にとって良くありません。
菌は自分たちが出した老廃物が一定以上増えると、増殖をやめてしまいます。
不潔な状態では増えられないのです。
菌にとって、洗いすぎは大敵ですが、適度な洗顔は必要なんですね。
夜は石鹸を使って一日の汚れを落とし、朝はぬるま湯洗顔などが理想的です。
そして、常在菌もバランスが保たれることが大切です。様々な菌が住んでいながら、常に善玉菌が少し多い状態を作る。
そういった状態が肌にはいちばんよく、きれいでトラブルレスな状態になれるのです。
長くなってしまいましたが、皮膚常在菌についての詳しいお話、いかがでしたでしょうか。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
※参考文献
1)青木皐『人体常在菌のはなし』集英社新書 2008年第6刷
2)九州大学大学院教授 吉田眞一 編九州大学大学院教授 柳 雄介 編九州大学生体防御医学研究所教授 吉開泰信 編『戸田新細菌学』南山堂 2013年第34版
3)葉山三恵子 和地陽二 瀬戸進 柳光男『健常女性の皮膚常在菌叢と皮膚の性状』粧技誌 第20巻第3号 1986
4)末次一博, 白石秀子, 泉愛子, 田中弘, 芝篤志『皮膚常在菌の皮膚状態に与える影響』粧技誌 第28巻 第1号1994
5)杉田隆『Malasseziaの菌学』真菌誌 第48巻 代4号 2015年